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大阪地方裁判所 昭和46年(手ワ)1042号・昭46年(手ワ)1041号・昭46年(手ワ)1040号 判決

原告A 玄奉玉

原告B 徳永好央

原告C 徳永正尚

右三名訴訟代理人弁護士 大川立夫

被告 花田栄一こと 李太乙

右訴訟代理人弁護士 海川道郎

主文

原告らの本訴請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告ら三名

「被告は、原告Aに対し次の(1)(2)の金員、原告Bに対し次の(3)(4)の金員、原告Cに対し次の(5)(6)の金員を各支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行宣言。

(1)金二一〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四五年一〇月二二日から完済まで年六分の割合による金員。

(2)金三四二、〇〇〇円とこれに対する昭和四五年一二月一六日から完済まで年六分の割合による金員。

(3)金三五〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四五年一一月一六日から完済まで年六分の割合による金員。

(4)金三四八、〇〇〇円とこれに対する昭和四五年一一月二二日から完済まで年六分の割合による金員。

(5)金三二五、〇〇〇円とこれに対する昭和四五年一一月三日から完済まで年六分の割合による金員。

(6)金三三〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四五年一一月一三日から完済まで年六分の割合による金員。

二、被告

主文同旨の判決。

第二、当事者双方の主張。

一、原告ら(請求原因)

(一)原告Aは別紙目録記載(1)(2)の約束手形二通、原告Bは同(3)(4)の約束手形二通、原告Cは同(5)(6)の約束手形二通を現に各所持している。

(二)被告は拒絶証書作成義務を免除して右手形の裏書をした。

1.右裏書は被告が自署、押印してなしたものである。

2.仮りに右裏書が被告の自署押印でないとしても、被告の長男である花田友三こと李友三が被告から付与されていた被告の署名の代行権限に基き手書押印したものである。

3.かりに、右友三に手形署名の代行権限がないとしても、友三は被告の実子として被告方に自由に出入し机上の実印等も使用できる状態におかれており、被告所有の不動産につき根抵当権を設定して事後に被告の追認を受けたことがあり、一般に実印使用を認容されていたものであって、たとえ、手形署名代行権限が右基本代理権を越えている場合でも、原告らが実子である右友三に被告の裏書を要求し、被告方住所において本件裏書が完成されていることから、原告は右友三に手形裏書の代行権限があると信じたものであって、原告には右代行権限ありと信ずべき正当の理由がある。

4.よしんば、右表見代理の主張が認められないとしても、被告は昭和四五年九月頃原告らに対し、右友三の無権限裏書につき、追認したものである。

(三)原告は満期に支払場所で支払のため右手形六通を呈示したが支払がなかった。

(四)以上の理由により、原告ら三名はそれぞれ被告に対し次の金員の支払を求める。

1.原告Aは右(1)(2)の約束手形金額、原告Bは右(3)(4)の約束手形金額、原告Cは右(5)(6)の約束手形金額。

2.右各金員に対する各満期の翌日から支払ずみまで手形法所定率による法定利息金。

二、被告(答弁)

(一)原告ら主張の請求原因事実中、(一)(三)は認める。

(二)同(二)の事実中、友三が被告の実子であることは認めるが、その余はすべて否認する。なお、本件各手形裏書は、友三が昭和四一年頃から原告に実父である被告の裏書を要求されて被告に無断で擅に被告名義の裏書を偽造したものである。

また、本件各手形の被告名下の印影は、右手形(1)(4)(5)(6)は「花田友三」と刻した同人の印章によるものであり、各手形(2)(3)は「花田玉子」と刻した同人の印章によるものであって、被告の印章によるものではない。

したがって、本件手形裏書は手形法八二条所定の記名捺印がないもので無効である。

(三)同(四)は争う。

第三、証拠<省略>

理由

第一、当事者間に争のない事実

原告主張の請求原因事実中(一)の原告らの本件各手形所持、(三)の呈示の点については当事者間に争がない。

第二、被告の裏書の有無

一、<証拠>を総合すると、被告の長男である花田友三こと李友三は自己が個人経営するメリヤス加工業の資金に窮し、原告Aの夫で、原告B、Cの父又は祖父である徳永雄司こと康球斌から手形割引の形式で手形貸付を受けていたので、右友三が本件手形(1)をその振出日である昭和四五年七月一〇日頃右徳永方に持参し同人に手形貸付を依頼したところ、同人は不渡を慮って自己の知人でもある同人の父親の被告に裏書をして貰ってくるよう右友三に要求したこと、これに応じ、右李友三は、ウエス(ボロ布)選別業を営む父の被告方へ赴いたが、独立別居していたので、実父に頼んでも断わられると思い、かねてから自由に出入していた被告方に上り込み被告の留守中に施錠してない書類箱からそこに保管されていた印章を利用してその都度手形の裏書欄に被告に無断で擅に被告名義を冒書し、その名下に押印したが、その使用印章は本件手形(1)(4)(5)(6)は右友三が以前使用していた「花田友三」と刻した印章であり、手形(2)(3)は友三の姉玉子の「花田玉子」と刻した印章であって、被告の実印、印章ではないこと、このように被告名義の裏書をなした右李友三は、本件各手形をその振出日にそれぞれ前記徳永こと康球斌方へ持参し、その都度同人に父(被告)から裏書を受けてきたのに間違いない旨申し向けて同人から手形貸付金の交付を受けていたこと、右徳永はこの友三の言葉を信じ何ら被告に対しその真否確認などしていないし、右印章の相違にも気付いていないこと、一方、被告は細々とウエス(ボロ布)選別業を営むものであって、現在まで手形振出、裏書などもしたことがなく、実印も以前不動産を買受けた際に使ったのみでその後はほとんど使用したことがないし、独立別居している李友三に対し、一般的に実印、印章の使用を許したりしたことはないこと、被告所有不動産に対する根抵当権設定登記も右李友三が被告に無断で擅に登記手続をしたもので、被告がその後これを追認したことはないことなどの各事実が認められる。そして、これらの各事実に照らすと、被告が本件各手形につき自署して裏書したことを推認できないことは明らかであるし、手形偽造の場合にも、要件が充足される限り表見代理規定を類推適用されてよいのであるけれども(最判昭四三、一二、二四民集二二巻一三号三三八二頁)、本件の場合、右各認定事実からは、右李友三が被告から実印その他の印章の使用を許諾され根抵当権設定等の代理権(基本代理権)があったとの原告主張の事実を推認するに足りないばかりか、右友三が被告の印章を使用して本件手形裏書をしたのであるが、被告と右友三とは親子関係にあるのであるから通常かかる家族間では比較的容易に他の家族の実印、印章を無断で持出し利用できる立場にあり、その濫用の危険、ひいては印章使用者たる右友三の権限欠陥を相手方たる前記徳永雄司においてもたやすく察知できるのであるから、その間の事情ことに被告本人に手形の真否確認をなすなど十分な調査確認をして手形を取得すべきであるのに、これが前認定のとおり認められず、そのうえ被告名とは相違する花田友三、花田玉子の印影にも気づかないまま前記徳永が本件各手形を漫然取得した点は右李友三の代理権限を信ずるにつき正当な理由があるとはいえないし、他にこれを認めるに足る証拠はない。

二、なお、手形法八二条にいう記名捺印とは、自署の代行を除き、筆記、氏名印、印刷などなんらかの方法で行為者の名称を記載し、行為者の意思によってこれに印章を押捺することをいうのであって、その印章が氏名となんら関係のないものでも、或いは他人の印章でもよいのであって(大判昭六・六・二五新聞三三〇二号一四頁)、その記名およびその名下の押印が手形行為者の意思に基づくことを要するに過ぎないのであるから(大判昭八・九・一五民集一二巻二一号二一六八頁)、被告主張の如く被告名下の印影が他人の印章によってなされた一事のみによって、手形法上の署名ないし記名捺印を欠き、本件各手形裏書をすべて無効であるとはいえない。したがって、本件各手形裏書の記名捺印が被告の意思に基づくものか否かの判定を要するところであるから、右李友三の代行権限の有無ないし、表見代理の成否を以上において検討したのであるが、これらが認められないことは前叙のとおりであるので、次には、被告の追認の有無につき判断する。

三、手形偽造についても無権代理の追認規定を類推適用して差支えないのであるから(最判昭四一・七・一裁判集民事八四巻一頁)、その有無につき判断するに、<証拠>を総合すると、昭和四五年九月頃原告玄奉玉および徳永雄司こと康球斌が被告方へ赴き、被告およびその妻に面談し、本件各手形を持参しないで被告の裏書がなされているので、その支払を請求する旨告げたが、被告は印を押したことがないから支払えないといったのみであること、その際、被告の妻はその場へ出て来て印章は自分が息子友三に出してやった旨述べたこと、その後一〇月初旬、同月二〇日頃の二回に亘り右徳永雄司が被告方へ支払請求に赴いたが、被告はその都度知らない支払えない旨の応答を繰返すのみであったので、最後に来た一〇月二〇日頃には、同人は被告に裁判をする旨申渡してひき上げたことが認められ、これらの各事実をもっては、いまだ被告が本件各手形の偽造裏書を追認した事実を推認するに足りないし、被告が息子のしたことだから自分が責任を持ち、分割して支払う旨述べて本件手形裏書を追認したとの原告らの主張に副う証人徳永雄司こと康球斌の証言部分、原告玄奉玉本人尋問の結果部分は前記各証拠および同人らが一度ならず三度までも被告方へ支払督促に赴き、三度目は裁判に付する旨申し渡していることなどの前認定事実に照らしにわかに採用できないし、他にこれを認めるに足る証拠はない。

第三、結論

以上のとおりであるから、被告に対し、本件各手形の裏書人として本件約束手形金およびその満期後の法定利息金の支払を求める原告らの本訴請求は、いずれもその理由がないことが明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九三条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春)

<以下省略>

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